The Dreams of Satoshi Kon: 第二章 - Perfection(完全)

1997年は第2期クリントン政権の誕生や,IBMのチェス専用スーパーコンピュータ「ディープ・ブルー」が初めてチェスチャンピオンに勝利し,ダイアナ妃が交通事故で亡くなり,フロッピーディスクが大活躍していた時代でした
そしてこの年に一つの時代を超越した映画が公開されました
世界中のアニメファン達は「最近ある監督のファンになった」と確信していたことでしょう
その映画とはもちろん「PERFECT BLUE」,メガホンをとったのは34歳の新人監督今敏,アニメーションの歴史でもっとも才能があり幻想的な監督となる人です
「PERFECT BLUE」が公開されたのは偶然といってもいいでしょう
元は実写のプロジェクトとして企画されていた「PERFECT BLUE」でしたが,スタジオが地震による被害を受け白紙となってしまいました
実写映画の代替案としてゴーサインがでたものがOVAでした
途中まで長編映画のプロジェクトでは無いにもかかわらず今敏氏が監督を任されたのは運の要素もあるでしょう
今監督はその僅かなチャンスを最大限に利用し映画を製作します
「PERFECT BLUE」が初監督作品とは思えない出来なのも,これまでに数多くの素晴らしいアニメ映画の脚本や演出を担当してきた今敏の才能と完成された人物である証拠と言えるでしょう
「PERFECT BLUE」はアイドル歌手「チャム」がコンサートを行うところから始まります
チャムのリーダーである霧越未麻は女優への転進によりアイドル歌手からの引退をコンサートで宣言します
アートワークを見てすぐに典型的なアニメとは一線を画していると理解できると思います,アイドル歌手や女優のキャラは例外ですが,キャラクターは醜い人達が多く登場します
普段ストリートで会う人間達は欠陥で溢れているような現実感があり,これはキャラクターデザインのみの醜さではありません
今敏本人も明るい色の髪の毛や大きな眼,小さな口のキャラクター達に抵抗感を抱いていたと認めています
PERFECT BLUEは一般的なアニメとは違い黒髪のキャラクター達がリアリティを演出しています
太ったマネージャー,コンサートを悩ますフーリガン,アイドルファン達....
しかし現実は突然粉々に砕けてしまいます
インターネットのファンサイト「未麻の部屋」に彼女の視点から書かれた日記を発見します
その日記には彼女が右足から電車を降りる事や,おそよ本人しか知らない私生活の出来事が書かれているのでした(好きな牛乳のブランド,その日のスケジュール,役に対する自身の考え)
この日記は未麻の妄想となり,気分の悪いレイプシーンを演じなくてはいけない事と華やかなアイドル歌手を辞めた事に後悔の念を抱くようになります
そして未麻が関わったテレビ番組のスタッフが次々と襲われ,ストーカー行為はよりシリアスに展開していきます
もはやテレビなのか未麻の部屋なのか,現実なのか妄想なのか全く区別がつかなくなり,チャムの衣装を着た未麻が至る所に見えるようになってしまうのです
この未麻というキャラクターは岩男潤子の演技無しには完成しなかったでしょう
岩男潤子は90年代から00年代初頭に活躍した有名な声優の一人として「カードキャプターさくら(知世)」,「KEY THE METAL IDOL(キィ)」,「マクロス7(サリー・セイント・フォード)」などに出演していますが,その中でも「PERFECT BLUE」では人格の変化において彼女の演技が輝いています
現実と妄想の間に焦点を合わせるのではなく現実と知覚的リアリティの狭間を表現しているのです
映画の中核の一つにはアイドル歌手がどうあるべきかという未麻の考えがあり,ファンの欲求やプラトニックな欲の対象としてのアイドルがあります
今監督は日本の"アイドル"現象をベースにそのクリエイティビティを発揮しました
妄想対現実をテーマに映画を作ってきた監督は実写やアニメに限らず多く存在します
ですが今監督は意識を高く保ったまま抜かりなくこのテーマに挑戦しているのです
ケバケバしい色や空飛ぶ車は登場しませんが巧みな作りにより「PERFECT BLUE」は完全なスリラーとして全てがリアルかのように思えてしまいます
監督が亡くなる間際に残した手紙には「これまでの映画制作においても予算においても不義理ばかり重ねて来てでも結局はいつだって丸山さんに何とかしてもらって来た。」と記されています
おそらくこの不義理さは我々視聴者へ最高の映画をプレゼントしたかった今敏のわがままであったのでしょう
初監督作品であっても豪華なアニメーションやディティールにこだわり,不義理さを貫いていました
精神の崩壊は眼に美しく映り,そして媒体が存在する限り残り続ける作品であるでしょう
残念ながら「PERFECT BLUE」のDVDは絶版となってしまいましたが中古市場では見つけることが出来るかもしれません
また日本ではブルーレイ版がリリースされています
by Bamboo Dong
http://www.animenewsnetwork.com/feature/2010-09-07
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[ABCBTomさん]
ベストじゃないけど今敏作品の中ではかなり好きな作品だね
今で言うと平野綾のファンが反発しているのと似てる
[jrnemanichさん]
私が初めて触れたアニメ映画であり人生を変えた作品だった
今監督の作品で2番目に好きな映画(千年女優のポジションは動かせない)
[dtm42さん(ニュージーランド)]
「AKIRA」と「PERFECT BLUE」は過大評価な気がしてならない
私がアニメを観出したのは2005年だから当時の事を知らないってのもあるけど
[Greed1914さん]
それは人それぞれだね
私は2003年からアニメを観ているけど「AKIRA」と「PERFECT BLUE」はベスト映画の一つだと思う
[Greboruriさん(オーストラリア)]
キャラクターデザインの醜さのようなものはかなり大友克洋の影響がありそう
両者ともリアリスティックなキャラクターを描いているけど今敏の方は大友作品のブラックコメディ的な調子では描かない
可愛さやあいまいな描写をしつつ,その下にはダークな部分が存在している
子供達が戦隊ショーに文句を言ってたり,内田が未麻を手のひらに乗せて躍らせてるような仕草をしたり
早くから監督は世界は醜いと我々に知らせていた
シーンの構成や場面の移行もとても良く作られてるから初監督作品とはとても思えないね
今監督の作品には無駄な贅肉も無いしすべて必要なシーンしか存在しない,バランスの取れた82分間になっている
「PERFECT BLUE」には大友克洋の名前がクレジットされてるけど彼のネームバリューが無くても十分良く出来てる
[roxybudgyさん(オーストラリア)]
DVDは絶版でもオーストラリアでは結構いろんなDVDショップに置いてあるから見つけるのも簡単
http://sirenvisual.com.au/Product/353.php?genre=anime
[captainbananaさん]
今監督が亡くなってしまったことでアニメの未来に暗い影を落としそう
不景気の世の中で今敏ほど予算にデタラメ言える監督がいるだろうか
押井や宮崎は巨額の予算を投じられるだろうけど,同じものしか作れなくなってきてる
そんな中で今敏は一貫して素晴らしい映画を作り続けてきたのに....彼がいなくてはこれから先のアニメーションは先細りになってしまう
[Henry Jonesさん(ネブラスカ州)]
PERFECT BLUEは好きだけど問題があるとすれば醜いキャラは美人のキャラに妄想を抱くサイコパス(精神病質者)であり,美人のキャラに悪い人がいない
故意で無いメッセージであるにしても映画のストーリーが簡単に解けてしまう,インパクトも薄くなるし
[Chrno2さん(アメリカ)]
是非PERFECT BLUEはリマスターして発売してほしい,そのくらい優れた作品だろ
ファンタジーだけど不気味なリアリティを感じる彼の手法には驚かされた
当時はVHSだったから,リマスター版をもう一度ゆっくり観直したいね
[glitteringlokeさん]
今敏作品の中では「PERFECT BLUE」と「パプリカ」がトップだろうか
パプリカのプレミア上映でワシントンに来た今監督がジェットコースターのような展開を楽しんでほしいって言ってたね
考えすぎちゃうと映画なんて楽しめないし余計に難しくなるだけ,そんな事を頭に入れて観直してみたらどうだろう
[orionism1さん]
「PERFECT BLUE」を作っていた当時はまだアマチュア同然でプロダクションバリューも無かった
この映画がリリースされたこと自体ラッキーと言っていいくらい
「PERFECT BLUE」があったから後の「パプリカ」で夢のシーンの理想的なシーケンスを学ぶことが出来た
[sonickid101さん]
今敏はアニメーションが完成したストーリーテリングに使える事を証明した監督
もちろんPerfect Blueも大好きな作品さ
(http://www.animenewsnetwork.com/)
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作品が残るっていいな
| 犬彦うがや | 2010/09/26 17:35 | URL |